眠った村と壊れた橋。

レビュー多。

『Sunny Side Hill』へのAmazonレビューの写し

★★★★★『陽の当たる小高い丘へ


「アニメ『無人惑星サヴァイヴ』のEDテーマ。ジャケットの少女は作品の主人公を強く想起させる面立ちをしている。


 表題曲は、"吹き抜ける風を、追いかけて走る"という歌詞に相応しい爽快な疾走感が特徴的だ。旅立ちと青春を予感した若々しい爆発的なエネルギーが、ピアノやギター、パーカッションの音に乗って陽気に踊りまくる。


 "特別な手紙"、おそらくかけがえのない人からのものだろうそれを封印して、勇気を出して旅に出ようと歌い手は誘う。そして旅路の中で寂しさに打しおれるが、健気に"大人のふり"でかっこつける。ところが誰かさんの前では、その気持ちのはみだしそうになるのを抑えきれない。かれはでも激情をひるまずに受け止めてくれる。
 青春の刻の中で"限りない夢"を旅する歌い手は、誰よりも速く先へと突っ切ってゆき、遠く果ての、陽光の差す明るい未来の高みまで一人行ってしまう。


 アニメの内容を知っているといくぶん切ない味わいがするような気がします。
 颯爽と走り仲間のみんなを元気いっぱいにリードしていく彼女(?)は、明るい旗印のような存在で、彼らの心の励みでありまた慰めでもあるのに、どこか疎遠で、孤独で、ゆえに寂しげに映ります。


 このテーマソングは、決して明るいだけの歌ではないと思います。深い底には、そこはかとない悲哀がひっそりと隠れています。


 アニメの視聴と合わせて、ぜひご一聴を!」


Sunny Side Hill
Sunny Side Hill
ビクターエンタテインメント
2003-10-22
ミュージック

『無人惑星サヴァイヴ』へのAmazonレビューの写し

★★★★★『迷子たちの冒険、サバイバル』


「キロロとラウンドテーブル(feat.ニノ)の主題歌に惹かれて見始めたこのアニメ。心をぐっと掴む奇抜さこそないものの、ついつい続きが気になってしまう魅力的なドラマがある。
 主人公の少女"ルナ"を初めとする子どもたち(桃色の猫型ロボットを含む)は、入念に整備されたスペースコロニーに住み学校通いしていたが、ある日シャトルで宇宙を航行している途中、「重力嵐」という自然現象に巻き込まれて見知らぬ異星まで飛ばされてしまう。そこは太古の時代の地球のように人がおらず、文明の未だ発展していない野蛮で危険な星だった。
 不時着した彼らは動揺した。ある者は冷静さを欠きがみがみと不平不満を吐きまくり、ある者は落ち込んで消極的に悲観ばかりし、子どもたちのまとまりはぼろぼろだった。だが、故郷を同じくするものとして、また剣呑な異境で力を分け合い助け合う同士として、彼らは互いに、摩擦を生じさせながらも、一致団結し連携して行動する。悲嘆に暮れる者も、わがままな者も、単独行動を好む者もいたが、度重なる危機を協力して脱することにより、どうにかこうにか調和は保たれ、サバイバルのための同士という結び付きはほどけずに済んだ。
 子どもたちはそれぞれ際立った個性を持っている。未だ成長途上で生きてきた月日が短いが、ちゃんと独自の過去を持ち、それが各々の特徴、行動様式を形作っている。
 題名の"サヴァイヴ"に関連して、ドラマでは「生きる」ということが主題になっている。冒頭のシーンでも「生きる」ということの意味があるキャラの死と対照されて熱意を込めて伝えられている。
 文明による整備の全くない剥き出しの自然の中に降り立った子どもたちが、故郷への復帰を図りながら、どのような生を営んでいくのか。食べて寝るだけで済むのか。家は、寝床はなくてもいいのか。人間は、そんな粗末な環境で生きていけるのか。

 問いに、ドラマは否と答える。

 無名の湖には、ファンタジックな名前があった方がいいし、退屈な静寂にはバイオリンの上品な音色が聞こえた方がいい。食事だって、美味しく料理した方がいい。

 生の厳しさに参りそうな人間に対して、自然は必ずしも残酷なだけじゃない。美しい景色を、癒しを与えてくれる。


 このドラマを構成した人は人間という生き物を興味深く巧みに描き切ったと思います。
 異星での子どもたちの紆余曲折を通して我々は、一時的に未開の時代に立ち戻ってその困難さを(ほんの一端であれ)知ることが出来、勇気を分け与えてもらえた気がします。


 「生きる」なんて、ゴキブリやアメリカザリガニでもドラマが作れるくらい単純なスローガンだけど、単純「過ぎる」ことなく、人間だけが苦しみそして欲する心の渇きと潤いを、このアニメは時には涙ぐましくなるほど美しく繊細に描いてくれました。


 制作陣に多謝です。」


無人惑星サヴァイヴ DVD-BOX 1
無人惑星サヴァイヴ DVD-BOX 1
ハピネット・ピクチャーズ
2004-06-25
DVD

『ARIA The NATURAL サントラ』へのAmazonレビューの写し

画廊の中をめぐり歩くような……


「テレビアニメ『ARIA The NATURAL』のオリジナルサウンドトラック。作り手は『ANIMATION』の時と同じくChoro Clubを初めとするお歴々。


『ARIA』という作品はそのユートピア的な世界、キャラたちの豊かな個性に加えて、音楽が優れて際立っている。本当に美しく装飾された浄土的な世界の物語である。


 個々のトラックは、アニメでの使用を目的としている割に再生時間が長いため、味わいに深みがあり、アニメから切り離しても単体で存立し得る充分な強度を持っている。

 しかし『ANIMATION』のサントラと比べて、今作はどう違うのだろう。

 しっくりする答えが出ないが、『NATURAL』のサントラは、『ARIA』という世界の独自の雰囲気を表現する曲より、"アジサイの小径" や "夕凪" といった、現実にある主に自然由来の言葉から作られた曲が幾分多い気がする。


 楽曲への平易な名付け方が作為的になされたのかどうかは分からないが、それは奇しくも特記すべき効果を『NATURAL』の音楽風景にもたらしている。

 というのは、元々ある『ARIA』のユートピア的な架空の世界の中に、"入道雲の下で" や "通り雨がやんだら" などの調べで自然を描写することにより、幻想的な雰囲気が醸し出されているのである。


 しかし幻想的であり得るのは『ARIA』の作品の力に頼っているからではない。

 このCDに収録された作品は個々に豊かな創造性に富んでいる。ゆったり聴いていると、まるで色々な絵画が並ぶ画廊を歩いている心地になる。

 実際、わたし自身長い間アニメを見返していないゆえ、どのトラックがどの場面で使われていたのかまるで記憶にないのだが、それでも楽曲はみずみずしい味わいに満ちていて、彩りに溢れたまぼろしを与えてくれる。

 "運河はめぐる" の余韻を一度じっくり感じていただきたい。それまでの軽快なメロディーの後の、ベルの音を伴った長い飛行機雲のような余韻は、想像を掻き立てる響きを耳に残してくれる。

 弦楽器のフェードインから始まる "アジサイの小径" を聴けば、雨粒に濡れたアジサイの花の、小庭のような街の一角に咲いている画が、まざまざと目に見えて浮かんでくる。何だか傘を差している気分にもなれる。

 "落陽" は少し不気味な出だしだ。だが、低く鳴る弦楽器の音と高い鍵盤の音のコンビネーションは、暗くなっていく夜の間際の憂愁を巧みに表現していると思う。

 "夕凪"は最後に近いトラックだ。そしてサントラの末尾を飾る曲の一つとして最も相応しい。この曲のバックに流れるエコー掛かったコーラスは、押し寄せてくる夜の気配や、波立ちの止んだ水面の静けさを歌って、"落陽" 以来の憂愁を想起させる。


 最高評価を付けないでは申し訳ない珠玉のサントラです。


 皆さんもぜひご一聴を!」


ARIA The NATURAL ORIGINAL SOUNDTRACK due (ドゥーエ)
ARIA The NATURAL ORIGINAL SOUNDTRACK due (ドゥーエ)
ビクターエンタテインメント
2006-05-24
ミュージック