ヒーローと、おとなと、こどもと。
思わず涙がこぼれた。
自分の信じる正義が、目の前にある偶像が、否定され、軽んじられ、打倒されようとしたためだ。
頑張れと、ぼくは叫んだ。必死に叫んだ。
悔しいが、力なきぼくには、そうすることが精いっぱいだった。
――しかし、ぼくはすでに大人になったのではないか?
今更、正義だの不正だのにこだわるようなことは、バカバカしいのではないか?
世の中を貫いているのは、正義ではないと、二十より多くのよわいを重ねたぼくは、悲しみと共に悟ったのではなかったか?
――頑張れ。負けるな。
おのれが信じ仰ぐ対象へと向けたその叫びを、だがぼくは、止めることが出来そうになかった。
たぶん、大人になったつもりだけど、なりそこなったのだと思う。
ぼくは未だに、泣き虫で、怒りっぽくて、子供じみている。正義を打ち立て、その価値を信じ、そして保護することを、断念出来そうにない。
正義と悪と。あらゆる物事をすっぱりその二局に分割して、思考し、判断する。あるのは白、そして黒。グレーはない。
だが、白と黒の対極を作ることによって、ぼくは信仰というものを持つことが可能になった。
ぼくは、ぼく自身の正義を信じ、守る。ぼくはそのために、悪と戦わないといけない。
個人の正義は普遍のものではない。世は風雨が猛々しく、そしてぼくと同じように、全ての正義を持つ者の、その正義は、その激しさに晒され、危うさに瀕している。
――勝ってくれ。
そんな応援の、激励の声は、そこかしこで立ち上がる。
ぼくの信仰する正義は、ひょっとすると、将来ダメになる時が来るかも知れない。
だけど、信仰することをやめれば、裏切りをしてしまえば、ぼくは、世の渾沌に飲み込まれ、自分という足場より奈落へと落ちてしまうだろう。
あらゆる正義はその敵と格闘し、傷付き、恐るべき渾沌の中を気丈に切り抜けようとしている。
――頑張れ。
大人の声? 子供の声?
誰かが、何かを応援している。