眠った村と壊れた橋。

レビュー多。

遊戯王TF6をDL

 今日、衝動的にpsvitaで、遊戯王TF6をダウンロードしました。

 ぼくは、遊戯王は、ぎりぎりgx世代なので、その次の5dsで登場した斬新システムのシンクロについてはあんまり知らないです。

 なので、勉強しつつプレイ。

 楽し~。時間を忘れる。


 ただ、敵が少し強いかな・・。


 では!

(習作)暗いお話

 ぼくが実の家、すなわち親の膝下を離れてから、かれこれ一ヶ月経つ。

 それは、一人暮らしを始めるのではなく――何か他の、大人っぽい、恥ずかしい思いをせずに済むような言い方があれば良いのだが――家出である。

 ぼくの年齢が十代の半ば、ないしは後半であればまだ、家出しても、それは若気の至りとか、青春の嵐として、幾らかの理解が、例え軽蔑の念と共にではあれ、得られるであろう。

 だが、残念ながら、ぼくはすでに二十代の、それも半ばに差し掛かっていた。

 自分が家出したなんて、口が裂けても人には言えなかった。もし言えば、自分のプライドがことごとく、再起へのリハビリが困難になるくらい、損なわれるだろう。守るべき、守るに値するプライドなど、ぼくには微塵もなかったのだが。

 とにかくぼくは家を出て、悄然とさまよった挙句、一軒のアパートに、廃墟とは言わないまでも、ぼろぼろのアパートにたどり着いた。

 今はそこで細々と暮らしている。

 前金も払えないような寂しい懐だったが、僥倖に恵まれ、家主のお情けが下り入居を許されたのだ。


 ぼくに宛てがわれた部屋は六畳の、割と手広い部屋だった。一つの家具もなかったが、手足を伸ばして寝られるのは、喜ぶべきことだった。


 ぼくは一応バイトをしていたが、それで得られる月収はたった三万円だけだった。

 真剣に生活していくことを考えるなら、バイトを早急に増やす必要があった。

 しかし、ぼくは、バイトを増やさなかった。というより、増やせなかった。その意欲がなかったのである。

 ぼくは何というか、衰弱していた。生きる気力とか希望を養ってくれるものが、恐らくすっかり枯れているのだろうと感じた。見る人が見れば、ぼくは心の病気を患っているに違いないと考えただろう。


 家賃はおおよそぼくの月収と同じで、毎月の徴収に応えられないことはなく、律儀に支払った。

 そのため家主は、衰弱している様子であっても、きっちり家賃を支払うので、まさかぼくが恐ろしく少ない月収で糊口を凌いでいるなどと知るはずがなかった。

 だが、はっきり言って、凌げてはいなかった。

 ぼくはどうしようかと困惑していたが、それでもじたばた足掻くことなく、長々と、ささくれだった畳の間にぐったり横たわっていた。


 或る、月の円い、明るい夜。

 ぼくはお腹が減った気がして、無性に何かが食べたくなりだした。

 しかし部屋に冷蔵庫はないし、買い置きしたお菓子とかの、何かすぐに食べられるものすらない。

 ぼくは仕方なく、壊れて紐で閉めている玄関のドアを開けて、向かいの、その名もその姿も知らない住人の部屋を訪ねて、か細い声で呼びかけた。


「すいませーん。」


 特にスパンなく、「はーい」と声がした。「どなたですか?」


「向かいの  と申します。」

「どうされたんですか?」

「お腹が空いたんですけど、何もなくって、少し、何でも良いので、おすそ分けしていただけたら嬉しいのですが・・・」


 食べ物を乞うなんて、プライドはどこに行ったのだろう、慇懃な前置きなく、ほとんど出し抜けに、無礼なリクエストをするなんて。多分、ぼくは本当に貧窮していたのだろう。ぼくは、ハイエナとかハゲタカに限りなく近いが、それらのけだものになりきることの出来ない、極めて卑しい、最も下級の人間だった。

 ぼくの要求の後、向かいの人は「ちょっと待っててください」と言った。

 それからしばらくして、扉が少し開くと、その中から微笑を湛えた、そばかすのせいで少し垢抜けない印象があるが、優しそうな表情の若い女性が、「粗末なもので良ければ」と照れながら言って、ラップで塞がれたお茶碗と四角形のパックを手渡した。


「納豆と、白ご飯です。こんなものですけど、よろしいですか?」


 ぼくはこみ上げてくるものがあり、感涙にむせびながら、「ありがとうございます」と述べた。久しぶりに人と喋ったお陰か、懐かしくあたたかな気持ちになった。


 再び女性に慇懃に礼を言って、部屋に戻ると、ぼくはコンビニの袋に入っている使い古しの割り箸を取って、食事しだした。茶碗のラップを剥がすと、納豆のパックを開け、タレとからしを入れて混ぜた。中々糸を引かないので、「おや?」と思い、パックを調べてみると、納豆の賞味期限が幾らか前で切れていることが分かった。が、においに違和感はなく、口に入れてみても変な味がしないので、ぼくは勢いよく食べた。ご飯の方はだいぶん前に炊いたものらしく、乾いていて、飴玉のように固かったが、よほどの空腹のせいで、特に気にならなかった。きれいに食べ終わった後に、空っぽの茶碗に水道水を入れて飲むと、素手できれいさっぱりに洗浄した。


 それから数日間は、食べ物を施してくれた女性のことを思い浮かべながら、部屋に横たわっていた。その間は、比較的幸福な期間だった。


 それから一ヶ月が経った或る日の、月の円い晩、ぼくはまた堪えきれない空腹を感じたので、ドアを開けて、例の女性の部屋を訪ねた。

 ところが、様子がおかしかった。ノックしても、呼びかけても、まるで空っぽのように何らの反応さえないのである。

 彼女は、引っ越したのであった、いつの間にか。恐らくそれは、ぼくがバイトに行っている間だったのだろうが。


 ぼくはしょんぼりとして、仕方なく、その隣りの部屋を訪ねた。すると、「ごめんなさい」と遠ざけられた。その反対側の部屋に行ってみた。「恥知らず」と言われた。その隣の部屋の前に行くと、丁度住人が帰ってきたところだった。が、物凄い目付きで睨まれて、ぼくは何も言えなかった。その後、全部の部屋を巡った。最終的にぼくは、恐るべき暴言を吐かれた。「死ね」とか「くたばれ」とかそういった類のものである。


 ぼくはもうダメだと思った。部屋に帰り、畳のささくれをむしゃむしゃ食みながら、翌月の月収の徴収の直前まで、何か言うまでもないようなどうでもいいことを考えたり、感じたりしながら過ごした。バイトへは一度も行かなかった。ごくみじめな生活の中で、貧乏にしいたげられている身体が、空前絶後の脅威的な嵐のようにぼくを行動へと駆り立てたが、人形同然になっていたようで、実行されることは何もなかった。


 美味しくも不味くもない畳を食べまくって、ぼくは自分が藁人形になってしまうのではないかと思った。それは嬉しい気持ちにさせた。人間より藁人形の方がはるかに良いと、ぼくは感じていた。

(習作)ワンダー・アラウンド・テール~かれらがめぐるもののこと~

 或る大きな球体、ボールやメロンのようにまんまるで親しみやすく、それでいてどこか神秘的な縁遠さのある、その周りの道を、ぼくは随分長い時間さまよっている。

 道は複雑に入り組んでいて、一本の道は何本もの似たような枝道に分岐し、また、道と道の間は青々と茂る木々に遮られて遠くを見渡すことが出来ず、その様はまるで容易に抜け出せない迷路のようだった。

 ぼくは、腰の後ろに手を組んで、足取りは緩やかに、屈託なく、好きな歌を口ずさみながら、軽快に歩く。

 その様子は朗らかなのが一目瞭然で、見た人はすぐに楽しそうと思うことだろう。実際ぼくは迷路を行くのを楽しんで、充実感を感じていた。たとえゴールに着かなくても構わないと考えていた。ただ近くの球体に目を遣りながら歩くだけで、充分快かったのである。

 だが、ぼくはたっぷりの疲労を溜め込んでいて、身体が重たくなっていた。足取りは昔より――しかしそれは一体何十年くらい前のことだろうか――ずっと鈍くなっており、時々組み直す手は硬く、感覚が遠く離れてしまったように、不自由である。みずからを「ぼく」と称するのも、少し僭越でカッコ悪く、おこがましく感じるほどだ。

 一体どれくらいの時間、ぼくは、この迷路の中を歩き続けているのだろう。それは多分、途方もなく長い時間で、きっと今のぼくは、自分の生命のほとんどが過去についえてしまっているに違いない。

 かつてここでぼくは、しばしば人とすれ違ったものだが、彼らは今となってはめっきりと少なくなってしまった。寂しいことである。

 すれ違った人の顔の一つ一つを、ぼくは未だに鮮明に覚えている。

 ぼくと彼らはすれ違った時、互いを敏感に感知し、関心有りげに相手の方を窺ったが、愛想よく挨拶し合うことは絶えてなかった。どちらも、その言葉が喉まで出かかっていたのにも関わらず、である。

 恐らく、ぼくも相手も引っ込み思案な気質だったのだろう。ぼくは「こんにちは」とか「ごきげんよう」の一言さえ簡単に言い出せない、臆病な自分がひどく恥ずかしかったが、背後を振り返ってみたら、遠くへと歩いていく相手の背中も、何かを恥じているかのように小さく畏縮していて、共感の情を誘った。

 すれ違ってからしばらく後にまた背後を振り返ると、遠くの方で必ずと言って良いほど、彼らは顔を上げて、球体の方を、ぼくがするのと同じように、憧れと畏敬の念に満ちた、恍惚とした眼差しでじっと見つめていた。

 ぼくはそんな表情を見た時、彼らの目元に自分の視線を押し付けて、何か反応が返ってくることをわくわくと心待ちにしていたが、ぼくと彼らの視線は、今に至るまでぴったりと合うことはなく、結局体と同じように相手のすぐ側を、悲しげに、おずおずと、通り過ぎていくばかりであった。


 この迷路に長くいる人たちは総じて球体に、まるで恋に落ちたかのように魅惑されていた。皆、球体と深く独特な関係を固く結んで、「彼」とか「彼女」などと気安く呼びながら、内面で親密に付き合っていた。

 かく言うぼくも、迷路にいるのと同じくらいの時間、「彼」とは長くよしみを通じており、その色々な表情を知り、かつ親しんでいる。

 彼はどれだけ眺めても飽きることがなく、神秘的な生命力と不思議な魅力を持って、鮮やかで特異な存在感をずっと維持していた。

 だが思い返してみると、昔の彼は今と画然と異なっていた。初めて見た時の彼は、ただのガスタンクにしか見えず、街外れに見かける無機質な施設の一つに過ぎない、大した価値のないものだと思った。つまらない野郎だという偏見を持った。

 だが、その印象は、長く付き合っていく内に今の具合へと徐々に変化していった。

 退屈としか思えなかった彼は、時間を経る内に次第に打ち解けて、やがて冷淡な殻でその内面を保護し隠すことをやめ、ぼくに様々な表情を見せてくれるようになった。喜怒哀楽を催すような、豊かな情緒と想念に満ちて、生き生きとした表情を、である。ぼくを含む、迷路の中の者は皆、その表情を見た途端胸を打たれて、苦しいような悲しいような、それでいて幾らか快いような気持ちになり、彼の存在を心にしかと焼き付けて一生忘れることはないと強く確信し、愛情を注いだ。彼もそれに誠実に応えてくれた。

 ぼくを含め誰もが皆、彼の方に行って、その側に寄り添いたいと切に思い願っていた。

 だが、全ての同じ願いは虚しい時間の経過に等しく打ち消され、多くの人が迷路の中で無残に斃れた。動かない彼と、時間の進行と、命の儚さは、過酷なものであった。

 しかし、それにも関わらず、我々、今生きている人々の中には、彼のもとへと向かうのを諦める者は一人もいなかった。皆、真剣に、愚直に、彼への憧れに従いながら歩を敢然と進め、命の砂時計がひっくり返るのも恐れず、みずからのまことに対して向かい合っていた。


 ぼくはもう腰弱の年寄りになってしまったが、迷路の中で時たま見かける――奇跡のような、本当に時たまの遭遇である――年端の行かない若人に、淡い期待を掛けている。まるで親が自分の子に対してするように、幾らか無理な期待を、押し付けがましく。

 彼らはその妙齢に反して幾分疲れ気味な様子をしているが、その内側の内燃機関はまだ新しく、爆発的なエネルギーを生み出す力を持っているに違いない。

 若人には、数少ない分余計に、彼の側に付いて離れずにいて欲しく願う。そして、彼に情を掛け、その表情に反映する感情のきらめきを拝んで欲しい、とも。


 ぼくは若人の若いことを羨ましく思う。ぼくは、まだ彼を見続けていたいが、命の砂時計がぼくの目の前で大きく傾いている。この世へのお別れが刻々と迫っているのだ。

 彼はきっと、ぼくが息絶えた後も、長きに渡って新しい表情を迷路の中の人々に見せてくれることだろう。それは信ずるに値する、ほとんど確かなことだ。


 ぼくにはこの世に残したい願いがある。つまり、ぼくがあの世へと旅立った後に遅れて来る、ぼくより若い人に、彼がどんな表情をしていて、そしてそれがどのように変化したのか、それらを是非とも教えて欲しいのだ。

 優しい人、いや、どんな人でも構わない。この際ぼくには選り好みする自由などないのである。

 迷路をさまよう、彼の表情に魅了されて、その虜となった人。どうかあなたに、彼の続きを物語って欲しいのだ。きっとあなたなら、ぼくとは違う、傾注すべき新鮮な言葉で、彼のことを情緒たっぷりに、まるで目の前に蘇ったかと思うくらい、絶妙に表現し教えてくれるに違いない。


 今、堅く冷たい地面の感触を頬に感じる。ぼくの寿命は時を移さず終わる。


 瞳をつーっと彼の方へ転じると、彼は澄んだ青色をしていて、昔テレビや図鑑で目にしたことのある地球に似て見えた。角のないまんまるの形をした、多くの生き物がひしめく、豊かな生命に満ちた青の惑星に、である。

 宇宙飛行士が宇宙から地球を眺めるかのように、彼を眺めるぼくは、不思議と地面の重力から解放される気がした。横たわる体がふわりと浮かび上がり、広大な虚空の高みへ、一筋の煙みたくゆらゆらとのぼっていく。ぼくの視界で、彼は小さくなっていき、やがて消えた。辺りには無窮の宇宙が、ぼく自身の宇宙が果てしなく広がった。

 数多の星々を含んできらめく宇宙の暗い流れは、柔らかい肌触りで冷たくなったぼくの体をかすめた。

 すると、或る微かな音色が、ぼくの内側に鳴り響いた。それは、ぼくにいたく懐かしい心地にさせると同時に、安らかな眠りへと誘う、揺りかごのそばの、母の子守唄であった。

 ぼくはそして目を瞑り、幾つもの思い出の星が詰まった宇宙の、無重力の自由の中で、或る蒼然とした夢を見ながら、遥か彼方のあの世へと、流氷のように水平に流れていった。