眠った村と壊れた橋。

レビュー多。

『OSTERさんのベスト』へのAmazonレビューの写し


★★★★★『等身大の乙女(おんなのこ)


「OSTER project feat. VOCALOIDのベストアルバム。珠玉の曲ばかりが収録された文字通り最高のアルバムだ。

 全体を通して可愛らしい雰囲気が充満している。スイーツのように甘い味わいのする曲が多い。

 "恋スルVOC@LOID"は態度がつんけんしているが中々憎めない女の子だ。性根では指揮者のことを信頼し大切に思っている。いわゆるツンデレという性格のギャップがキュートである。

 "PIANO✽GIRl"は鍵盤の演奏が際立っている。淀みなく奏でられる音色はまるで踊るように溌剌としていて楽しい。奏者はだいたいは素直にピアノを弾いているものの、時に小粋でトリッキーなリズムを用いて油断している耳を驚かす。妖精的な心憎い幻惑である。

 "one more kiss"は歌詞がやや挑発的だ。歌い手は恋仲の終局を想定して聴く者に恋のスパートを共にかけようと誘惑する。残り限られたキスは果たしてどんな味がするのだろう? 乗らないではいられないような魅力がその誘惑にはある。

 "おひめさまになりたいのッ!"はメルヘンチックだが少し滑稽だ。童話のお姫様のイメージに寄り添ったまま歌い手はそれからすっぱり離れられない。彼女は自分が痛々しいことをうすうす知りながら葛藤する。しかしそれでも夢を捨てないという姿勢が、大人の女性に成熟しかけの彼女を"夢見る女の子"たらしめている。バケツプリンと大きなお城と白馬の王子様のために、彼女は精一杯生きている。

 OSTERさんのレパートリーにおいてベストと言える曲はしかし可愛らしいとだけで表現出来るものばかりとは限らない。濃密な色気の漂う曲もある。

 "EAT ME"は悲劇的な歌だ。恋煩いに罹った歌い手は、思いを募らせる余り、自暴自棄的な危うさを持っている。思わず引き止めたくなるが、脇目も振らず突っ切る彼女は徹底的に孤独である。おとぎ話のワンシーンに由来するタイトルは、彼女の行き過ぎた献身の哀しさを示している。「行きずりのシンデレラ」は、その純心な利他性のために儚く散っていく。

 "恋色病棟"は熱に浮かされたような歌詞である。母性本能を働かせ深夜にも関わらず世話をしに行った恋人(かれ)のもとで、歌い手はさんざん翻弄され、ついには心を患う。「助けてよ」という叫びからは、平静のたがが外れて熱烈な愛情が末尾から余韻にかけて洪水のように大量に溢れている。


 末端のトラックの"ミラクルペイント"は軽快なスキャット(?)から始まる。可愛らしさと色気の両方を含むこの、創作と恋愛を諸共モチーフにしたような摩訶不思議な曲は、掉尾を飾るに相応しいOSTER projectの集大成ではないだろうか。初音ミクは、頭の"恋スルVOC@LOID"と同様、少しこしゃくである。着想を得ても、彼女は時間がたっぷりないと創作活動に付き合ってくれない。しかしそんな風につれなく歌いながらも、内心ではすっかり恋人(指揮者?)に身を委ねているし、感謝しているし、彼(彼女)とのお互いに高め合うような実り豊かな関係について、「まだ終わらないで」、と本音を吐露したりする。


 OSTER projectはアレンジがたしかに優れている。それぞれの曲に付与された演奏は、歌詞を絶妙な具合に醗酵させ、その心がうまく汲み取ってもらえるよう配慮が細かなところまで行き届いている。


 創作としてトップレベルに優れている曲ばかりと思います。

 自分はこのアルバムのお陰でOSTERさんにもボカロにも興味が増しました。


 皆さんもぜひご一聴を!」

OSTERさんのベスト
OSTERさんのベスト
dmARTS
2012-01-18
ミュージック

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