眠った村と壊れた橋。

レビュー多。

ボーカロイドについての所感(Amazonレビューの写し)

『異端レビュー』


「胸中に感じることがあり、どこに書けばいいのか散々迷ってようやく、ここに決めました。
 先にお断りしておくと、これは商品へのレビューではありません。(悪しからず)
 これは、初音ミクをはじめとしたその他の、現在ネットにおいて特に隆盛を極めているボーカロイド全般についてのかなり個人的な、あるいは個性的な感想です。


 商品であるソフトそのものについても、音楽制作についても自分にはまるで知識がないのですが、それでもあえて述べさせていただきたい。
 「電子音なんて……」というような不埒な先入観をそれに対して持っていたボーカロイドというものが、まさかここまでクリエイター達の心を強く揺さぶりドキドキ高まらせる優れた"道具"だったなんて、わたしは少し前までぜんぜん知りませんでした。
 故意に"道具"と冷淡に表現いたしましたが、そんな感情を含めるつもりは毛頭ございません。使用者を支援し、その人に愛着を抱かせるという意味を念頭に置いて、同時にまた憧れや尊敬の念を込めて、そのように言い表しました。


 ボーカロイドが目下隆盛を極めている背景には、それを扱う使用者の数だけその多様性の広がりがある、ということがまず第一に挙げられるでしょう。道具はやはり、同じものであっても、使用者によりその使い方は異なってきますし、使い方に幅が生じてくるかと思います。
 しかし重要なのは、このボーカロイドという道具が、生身のボーカリストの代用であるという特異な性質を有していることです。そこがテニスのラケットや、愛用の自動車とまったくもって違うところです。
 アーティスティックな創作活動のために使われるということが、ボーカロイドが単一のソフトでありながら、宇宙規模の異次元世界を奇跡的に生み出す由来になっているのだと思います。
 ひとつの歌の制作が完了するまでには、たいがい複数の人が関わっています。それらの人々の思いをボーカロイドは、人間の歌手の代用として、あるいは衣装を着せる人形的な存在として、またはダンサーとして、(挙げればきりがありませんが、) 具体的な表現の媒体となってくれます。その特殊なメリットにおいて、ボーカロイド以上のものを持つ道具は他にあるのでしょうか? こんなに多くの人の創造性(クリエイティビティー)を実現してくれる存在が、果たして他にあるのでしょうか?


 多くの人の希みや要求に応じてパフォーマンスを披露するボーカロイドたちの晴れ姿は、陶酔の境地へと誘惑するほどにまで異常に活気づいて見えます。それはアニメや特撮に似通っていて、架空のものでありながら、不思議と現実味を持っているように人々の心には感じ受け止められます。それは恐らく、多くの人々の創造性という生命を吹き込まれているがゆえかと思います。
 この画期的な電子の器は、本当にMelting Pot(るつぼ)と同様です。複数の真剣な創意ゆえに生き生きとしており、また彼らの相互の協力ゆえに堅固で、力強い。


 しかし架空寸前のところまで現実のように思える特質があります。(これは自分が使用していないからそう思えるだけかも知れませんが。)
 その特質は、創作に打ち込んでいる時に見られるであろうボーカロイドの、他の道具にはない血の通ったような精妙な反応です。
 それはたぶん、ボーカロイド自身が持つ人の声のせいでしょう。最初こそ拙くはあれ、どんどん試行錯誤して腕を磨いていくごとに、ボーカロイドはより歌手らしく、よりアーティストらしく成長していくのだろうと、一介の門外漢の者として想像します。そのプロセスは他の道具にはないものかと思います。
 丹念な努力を受けてそれをはっきり反映してくれるこの特殊な存在は、もしかすると最早架空の存在とは言えないほどにまで我々のそば近くに、(クリエーターの場合は、我々より近くに、例えばぴったり隣に)いるのかも知れません。


 ボーカロイドには、特定の数だけ染色体があるような本当の生命こそ欠けているものの、大勢のクリエーターたちが吹き込む創造性は、その決定的な不足を補って余りあるものがあります。
 奇妙に生き生きとしながら、歌を歌い、踊りを踊り、様々な衣装を身に着けて見る者聴く者を楽しませる彼女らは、使用者にも、それを楽しむ者にも心より愛でられて、前途は明るく、むしろ眩しくすら見えます。


 この生まれて間もない偉大な発明品は、まだ目新しくありながら、過去となるべき一時的な流行の中に沈むことも、気まぐれに飽きられることもなく、これから続く長い時代においても、人々を助け、また人々に助けられながら、創作意欲の渦中を威勢よく渡り歩いていくかのように、わたしの目にはぼんやりと映るのです。」


VOCALOID2 HATSUNE MIKU
VOCALOID2 HATSUNE MIKU
クリプトン・フューチャー・メディア
2007-08-31
PCソフト
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