眠った村と壊れた橋。

レビュー多。

岡田麿里著『あの花』へのAmazonレビューの写し。

『打ち上げ花火と童心のそら』


「アニメ『あの花』のノベライゼーション。著者は岡田麿里さん。


 ノベル化するに当り、ことの順序や幾つかの場面のステージが改変されていたり、短いチャプターが挿入されていたりするものの、根幹はアニメとおんなじです。物語のコンセプトを含め、その出だしから終幕まで、遜色はまったくと言っていいほどありません。
 本文は余計なことばが少ないお陰で文章がスリムで読みやすく、情報がすらすらと流れるように頭に入ってきます。
 また、くすっと笑えるコミカルな表現から、純文学的な美しい表現まで、著者の多芸っぷりを思い知る気がします。


 わたしは、アニメの方を一度視聴し心に痛い直撃を受け、同じ感動を得られるかどうか不安な気持ちでこの本を手に取ったのですが、後に残る印象は少しも変わりませんでした。
 ある時はキャラクターの視点で、ある時は著者の視点でこの物語を改めて疑似体験しながら、その世界の中に(アニメの時と同様に)感得したのは、過去に自我が留まったまま未来へ伸び悩んでいる若者への温かなエールです。


 大人と子供のさかいに立ち入ってうまく現実に適応できずにいる高校生が、昔死別した友だちの幽霊(?)に出遭い、励まされて、旧友と再会し、最終的に、成長と新たな旅立ちの契機に恵まれる――それがこのお話のおおまかなあらすじです。 


 主人公とその旧友たちにとって生涯大切な「あの日」を基点に、この物語は進んでいきます。
 痛みを孕んだ過去の記憶に現実の目を向け、悩み、努力し、停滞している自己に動力を与え、未来への道程を歩ませる。その構図は、若いのにへんにノスタルジックになっている一部の、あるいは大勢の若者にとって、仮にささやかなヒントに過ぎないにしろ、暗鬱な将来に差す一条の光明となりうるのではないでしょうか?


 中軸となる一人のキャラの「願い」は、結局それが何なのか解明がなされず、物語が終結した後も、内容の曖昧なまま残されます。
「願い」が単体の疑問として残るか、解答と共に残るかは、読者の心次第です。これは決して理解できる・できないに分けられるような単純な論理の問題じゃなく、おのずと感取されるか・されないかの、”心の反応”にゆだねられる問題なんじゃないかと思います。


 本当に優良な書です。ただのアニメのノベライゼーションにしておくには惜しいくらいの。
 願わくは、この本が物語の主人公と同じような悩みを持つ少年少女たちの勇気付けにならんことを!」


あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。上 (MF文庫 ダ・ヴィンチ お 8-1)
あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。上 (MF文庫 ダ・ヴィンチ お 8-1)
KADOKAWA/メディアファクトリー
2011-07-20

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